研究課題/領域番号 |
10557170
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
朔 敬 新潟大学, 歯学部, 教授 (40145264)
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研究分担者 |
依田 浩子(米持 浩子) 新潟大学, 歯学部, 助手 (60293213)
大城 和文 新潟大学, 歯学部, 助手
程 くん 新潟大学, 歯学部, 助教授 (40207460)
中島 元夫 ノバルティスファーマ, 宝塚研究所・癌研究グループ, マネージャー(研究職)
鈴木 誠 新潟大学, 歯学部・附属病院, 講師 (50107778)
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キーワード | スラミン / 細胞外基質 / ヘパラン硫酸プロテオグリカン / ファイブロネクチン / インテグリン / RT-PCR / 口腔癌 / ACC3 |
研究概要 |
ポリスルホン酸化合物スラミンの抗腫瘍効果が細胞外基質分子(ECM)とその受容体との相互作用にどのような分子機構で関与するのか、ヒト唾液腺癌由来ACC3細胞について検討したところ、昨年度までにスラミンによって惹起されるACC3細胞の形態変化、接着阻害、重層化、ECM分子捕捉障害の現象はECM分子のレセプタインテグリン(INT)の糖鎖修飾障害ならびに細胞膜組込み不全によって惹起される可能性を示し、INTと共沈する分子の一部が焦点接触キナーゼ(FAK)であることを明らかにできた。そこで、今年度は、FAKの生合成に着目して以下の実験をおこなった。 ヒト唾液腺癌由来ACC3細胞に100μMスラミンを添加して培養をおこない、その受容体インテグリン(INT)α5、INTα2、INTβ1とともにFAKの発現動態について、免疫沈降後、SDS-PAGEおよびフルオログラフィにより、生合成過程はパルスチェイス法により解析し、さらに、競合的RT-PCR法をもちいてmRNA発現への影響を検討するとともに、同分子群のリン酸化レベルを検索した。 この結果、免疫沈降法によってACC3細胞のINT各分子と共沈する分子量120KDのバンドは少なくともFAKであることを再確認し、同分子はスラミン添加により消失することが判明した。さらに類似の分子量を有する細胞膜裏打ち蛋白質の抗体をもちいて検討したが、特定できるものはなかった。スラミン添加によりFAK遺伝子mRNA発現は上記分子の遺伝子同様抑制されることはなかったが、蛋白質レベルの発現は減弱し、しかも、120KD以下の低分子量バンドが増加し免疫沈降された。したがって、スラミン存在下ではFAKは翻訳はされるもののただちに分解系にはいるか、あるいは翻訳が完全におこなわれていない可能性が示唆された。さらに、リン酸化セリン・スレオニン特異的抗体およびリン酸化チロシン抗体をもちいて蛍光抗体法によって検討したところ、スラミン添加により、同リン酸化レベルが有意に低下することが判明した。したがって、FAKにふくまれるリン酸化部位はスラミンによって有意に抑制されることが判明した。また、FAK以外の分子に対するリン酸化障害に関して免疫化学的にさらに詳細な検討を継続している。 以上、FAKの輸送配置不全あるいはリン酸化不全のために、FAKさらにはINTの細胞膜への組込みが抑制されて、細胞外基質が細胞膜上に捕捉されないことで、スラミンによるACC3細胞の形態変化、接着阻害、重層化、ECM分子捕捉障害の現象が惹起される可能性を示すことができた。この結果、スラミン投与によって口腔癌細胞のECM接着不全さらには増殖抑制が招来され、この分子機構によってスラミンの抗腫瘍効果が説明可能であることを示すことができた。すなわち、スラミンの臨床応用の科学的根拠が明らかにできた。
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