研究課題
基盤研究(B)
本研究課題では、細胞接着抑制によって抗腫瘍効果があるかどうかを検討した。ポリスルホン酸化合物スラミンが細胞外基質分子(ECM)とその受容体との相互作用にどのような分子機構で関与するのか、ヒト唾液腺癌由来ACC3細胞について検討することが主たる計画であった。ACC3細胞は種々の細胞外基質を産生するが、なかんずくヘパラン硫酸プロテオグリカン等の基底膜構成成分やファイブロネクチンなどの生合成能が高いことがしられるので、この細胞系にスラミンを添加して培養をおこない、その受容体インテグリン(INT)の発現動態について、免疫沈降法と競合的RT-PCR法で蛋白質およびmRNA発現への影響を検討した。その結果、100μMスラミンによってACC3細胞は培養上清中に多量のECM分子を放出した。200μM添加では、細胞の接着・増殖は明らかに阻害されが、RGDペプチド添加によって接着阻害は2.5倍に増強された。1週までの培養では、ACC3細胞は対照群より以上に細胞増殖をつづけ、三層程度まで重層した。蛍光抗体法では、ECMならびにINT分子群は細胞外あるいは細胞表面には局在せず細胞質内にとどまっていたので、分泌されたECM分子はINT不在のため細胞表面すなわち細胞眉に沈着できず、上清中に放出されることが判明した。したがって、スラミンはINT依存性の細胞接着過程のいずれかの段階を阻害するものと示唆された。そこで、免疫ブロット法と競合的RT-PCR法等によってをもちいて検討したところ、INT各分子と共沈する分子量120KDのバンドが欠失することが判明した。そこで、この分子を特定するために、類似の分子量を有する細胞膜裏打ち蛋白質の抗体をもちいて、免疫沈降法ならびにウェスタンブロッティングをおこなった。その結果、この120KDの分子は焦点接触キナーゼ(FAK)であることが特定できた。したがって、FAK不在のためにINT機能抑制が生じ、細胞接着が阻害されている分子機構を解明することができた。以上より、スラミンにような薬剤によって細胞膜上の細胞外基質受容体を阻害する機序を解明できたので、その科学的根拠にもとづいて細胞接着抑制による口腔癌細胞増殖抑制という抗腫瘍効果の臨床応用への展望をひらくことができた。
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