研究概要 |
レーザー処理面には,タービン処理面と異なりスミアー層が形成されない。ところが,現用の接着システムはスミアー層の処理を前提としているため,そのまま応用するには問題がある。本研究は,スミアー層に覆われることなく裸出したコラーゲン線維やアパタイト結晶に効果的な接着システムを新たに開発することを目的として計画した。すなわち,Er:YAGおよびCO2レーザー処理された象牙質面に対し,1)走査電子顕微鏡による表層の形態学的変化の検討,2)微小引張り接着試験による市販の代表的な接着システムの接着性検討,3)接着界面の微細構造観察等を行った。その結果,レーザー処理象牙質表層には微小な亀裂や剥離など種々の形態の構造欠陥が発生し,当該部位へのレジンの浸透不足やトラップされた水分による接着阻害等によりレジンの接着性の低下することが判明した。また,4)サーモグラフィーや,5)マッソントリクローム染色による光学顕微鏡観察により,レーザー処理象牙質表層に限局した熱変性層の発生していることも確認された。そこで,煮沸,あるいはオートクレーヴ処理した象牙質に対し前記1)〜3)について検討したところ,熱変性層もレジンの接着性低下に関与しており,構造欠陥よりもむしろその影響は大きいことが判明した。これらの知見から,構造欠陥や熱変性層を除去すれば市販の接着システムをレーザー処理面に効果的に応用可能と考え,それらの処理方法について検討した。まず,前記1)および5)の方法により,リン酸および次亜塩素酸ナトリウムの併用による脱灰と有機成分溶解がそれらの除去に有効なことを見出した。次いで,レーザー照射後本処理を施した象牙質に対し前記2)について検討したところ,一般に接着強さは有意に回復するものの,接着材の種類によっては有効でない場合もあった。今後,その原因を解明すると共に,より簡易な新しい接着システムの開発に従事する予定である。
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