研究概要 |
現用の接着システムは,スメア層の処理が前提であるが,レーザー処理象牙質面にはスメア層は形成されず,また,種々の形態の構造欠陥や熱変性層が表層に生じている。従って,市販の接着材をそのまま応用してもそれらが接着阻害因子となり,期待した程の接着性が得られないことを既に明らかにした。本年度は,レジンの初期接着性を回復させるためにそれらを除去する適切な前処理法の検討,ならびに接着耐久性の検討を行った。 走査電子顕微鏡による表層の形態学的変化の検討,マッソントリクローム染色による光学顕微鏡観察,および微小引張り接着試験より,37%リン酸による30秒間の脱灰と10%次亜塩素酸ナトリウムによる2分間の有機成分溶解が,構造欠陥や熱変性層の除去に有効で,かつレジンの初期接着性の回復に有効であることを見い出した。次いで,温度負荷(5℃/55℃)を1000回掛けることにより接着耐久性を検討したところ,レーザー処理面に直接充填したレジン修復物の接着性はほぼ半減し有意差が認められ(p<0.01),構造欠陥や熱変性層は,初期接着性のみならず接着耐久性にも悪影響を及ぼすことが明らかとなった。ところが,それらを除去した面に接着したレジン修復物の接着性は,温度負荷を掛けても低下しなかった。従って,この前処理は,レーザー照射で低下したレジンの初期接着性,ならびに接着耐久性を回復させるのに有効であることが判明した。 しかしながら,回転切削器具の場合と同等の接着耐久性を有するかは不明であり,今後,形成された樹脂含浸層の「質」を中心に評価検討を行い,この点を明らかにする必要があるものと考えている。また,水洗も含めた前処理に要する時間は約5分間と非常に長く,臨床の実際には則さないという問題もあり,今後,これらの点を検討すると共に,レーザー専用の接着材の開発に従事する予定である。
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