研究概要 |
レーザー処理象牙質面に有効なレジン接着システムを開発するために現用のレジンの接着機構を検索する目的で,Er:YAGレーザー及びCO2レーザー装置を用い,レーザー処理象牙質面の性状変化について検討を行った。走査電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡観察から、両レーザー処理象牙質表面には回転切削で形成されるようなスメア層は認められず、亀裂や層状構造物等の構造欠陥が発生していた。また,サーモグラフによる照射表面温度測定では,Er:YAGレーザーでは約200℃,CO2レーザーでは約750℃の温度に相当する熱の発生がそれぞれ認められた。さらに,エネルギー分散型蛍光X線分析装置及び超微小硬度計による分析の結果,表層約20-40μmにおいてCa,P両元素の濃度が減少し,さらに象牙質自体の硬度も低下していることが認められた。このような象牙質表面や表層の構造変化や性状変化に伴い,象牙質コラーゲンの高次構造が破壊された一層や熱により変性した一層が,マッソントリクロム染色切片における光学顕微鏡観察,脱灰超薄切片における透過電子顕微鏡観察及びX線光電子分光分析装置(XPS)等を用いた表面分析により確認された。一方,このように回転切削面とは性状の異なるレーザー処理象牙質面に対する市販の接着システムの接着性を,ダンベル型接着試料による微小引張り試験法により検討したところ,レーザー処理面に対するレジンの初期接着強さは回転切削面のそれに比し有意に低く(P<0.01),温度負荷を与えるとさらに有意に半減した(P<0.01)。この原因として,レーザー処理により形成された構造欠陥部位への引張り応力集中,象牙質コラーゲンの変性によるレジンの浸透性阻害やそれに伴う樹脂含浸層の機械的強度の低下,ならびに被着体である象牙質自体の物性低下等が考えられた。
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