研究概要 |
現在までに検討されている単純ヘルペスウイルス(HSV)を利用した癌遺伝子治療としては、HSVのチミジンキナーゼ(TK)を癌細胞に導入し、全身的にガンシクロビルを投与し、TKを発現する細胞のみを死滅させる方法、増殖能力のないTK、ICP34.5γあるいはICP6欠損HSV-1を感染させ分裂増殖を繰り返す腫瘍細胞を破壊する方法がある。現段階では、ウイルス療法単独ではすべての腫瘍細胞にウイルスを感染させることは困難であるため、ウイルスと抗癌剤との併用も視野に入れる必要がある。初年度は、まず遺伝子治療を行う研究対象としての唾液腺発癌実験系の確立とその機構の解析を行った。マウス顎下腺で産生される上皮増殖因子EGFは唾液腺癌増殖のプロモーターとしての活性は示さないことが判明した。これに対して、線維芽細胞増殖因子FGFは、顎下腺癌発生を有意に増加させ、顎下線発癌と腫瘍の増殖に重要な働きを示すことが明らかと成った。遺伝子治療に併用する薬剤として、FGFの活性化による癌細胞の増殖抑制を期待して、レセプターチロシンキナーゼを特異的に阻害するチルホスチンの効果を検討し、AG17にマウス顎下腺癌増殖抑制、アポトーシス誘導活性を検出した。ウイルスはHSV-1のKOS株のDNA断片pSG124より、ICP6(UL39)遺伝子を含むXhoI-XhoI領域を除去し,β-galactosidaseを発現できるSV40プロモーター、lacZ遺伝子、SV40 early polyadenylation sequencesを組み込んだレコンビナントを作成し、ホモロガスレコンビネーションにてICP6の欠損ウイルスを作成した。さらに、有用性が報告されているHSV-1のTKを組み込んだアデノウイルスベクター系の作成に着手している。
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