研究概要 |
この研究の目的は口腔保健調査の診査項目を整備し,得られたデータの集計,分析,蓄積および結果の解釈に関し,地方自治体,保健所,保健センターに対し支援することである。その手段として,口腔健康調査用のデータベースソフトウエアを試作する。そのために必要な基本的な基礎データを得るために1年に1度(6月に)追跡調査を行っている。本年度は70歳ベースラインに有歯顎であった554名の内,24ヵ月後,72歳での追跡調査実施者402名を対象に歯の喪失リスク要因を明らかにした。 24カ月間に歯を1本以上喪失した者の割合は31%であった。歯の喪失者の内,19%の者で喪失歯全数の45%を占めたように,喪失リスクの強弱は人により偏っていた。24カ月間の喪失の有無と有意な関連が認められたベースライン時の口腔は,現在歯数,歯周健康状態,口腔細菌,クラウン数,未処置ルートカリエス,口腔の自覚症状の有無,咀嚼能力,全身状態ではBMI, IgG,食生活,日常生活動作の支障であった。 ロジスティック回帰分析による最終モデルでは,有意性が認められた変数はBMI, IgG,日常生活動作の支障,アタッチメントロス,クラウンの数,ルートカリエスの6項目であった。すなわち,BMIが24以上,IgGが1901mg/dl以上,歩行,階段昇降,椅子からの立ち上がりなどの支障がある,アタッチメントロス部位が4%以上,クラウンの数が9本以上,ルートカリエス保有,の者が有意に歯を喪失しやすいことが示された。このモデルの説明力(PseudoR^2)は0.1220であった。 高齢者の健康水準を左右する口腔要素として最も重要なものは,これまでの研究から咀嚼機能の喪失,あるいは著しい減退であり,それを端的に示す口腔指標は歯の喪失である。したがって,歯の喪失に影響を及ぼす要因をターゲットに予防プログラムを策定することになる。
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