従来、鼻呼吸障害と顎顔面形態との関連性については、数多くの研究が報告され、不正咬合、顎顔面形態の異常の原因とされている。本研究では、睡眠時無呼吸症候群をはじめとする鼻呼吸障害、睡眠時の咀嚼筋活動、睡眠中の垂直的下顎位との間の関係について検討を行った。 下顎位の長時間記録システムを用いて、睡眠時無呼吸症候群患者と健常者の睡眠時における垂直的下顎位を記録、分析した結果、健常者群では5mm以上開口した時間帯が全睡眠時間の11.1%であったのに対し、睡眠時間無呼吸症候群患者では69.3%と有意に延長していた。また、健常者で認められた睡眠段階と相関した下顎の開口が、睡眠時無呼吸症候群患者では認められず、無呼吸の発現と一致した下顎の開口ならびに閉口運動が認められた。さらに、夜間のBruxismについて検討した結果、Bruxismと無呼吸の発現とには直接的な因果関係は見出せなかった。しかし、睡眠時無呼吸症患者の無呼吸に伴う覚醒反応に一致してBruxismが発現していることが明らかとなった。 一方、成人と子供の咀嚼筋活動と顎顔面形態との関連について検討したところ、子供では側頭筋のdurationが咬筋よりも延長しているのに対して、成人では咬筋の方が延長していた。また、咬筋と顎二腹筋の活動量は、垂直方向の顎顔面形態と強い関連性があることが示唆された。さらに、顔面非対称を呈する顎変形症患者における睡眠時の咀嚼筋活動の左右差について検討したところ、患者群の咬筋の左右差は睡眠時に有意に小さく、側頭筋の左右差は有意に大きな値を示した。 以上のことから、鼻呼吸障害があると、開口量が増し、頻繁に覚醒反応が起こり、夜間の咀嚼筋活動に変化が起こることが明らかとなった。これらのことが、顎顔面形態や咬合状態に影響を与えるものと考えられた。
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