研究概要 |
癌化学療法において、癌細胞の耐性獲得機構の解明、および耐性克服薬の開発が急務となっている。微小管の脱重合を阻害する特異な作用機序を有するタキソールは、固形癌に有効な新しいタイプの抗癌剤として使用されている。しかしながら、癌細胞においてP-糖蛋自質の出現やチューブリンの構造変化といった耐性機構の発現により無効となってしまうことがわかってきた。そこで本研究では、微小管脱重合阻害というタキソールの特異な活性を保持しながら、タキソールに対して出現するP-糖蛋白質やチューブリンによる耐性を克服できる化合物の開発を目的として、タキサン化合物をモデルとした構造活性相関により、微小管脱重合阻害作用をもちかつ多剤耐性克服能をもつ機能性タキサン化合物の開発を検討した。 ヒト卵巣癌の多剤耐性発現株2780AD細胞を用いて、その細胞内の抗癌剤ビンクリスチンの蓄積増加量を指標としてスクリーニングを行った結果、日本産イチイTaxus cuspidataより36種のタキサン骨格をもつ新規ジテルペン化合物タキサスピンA〜H、J〜WおよびタキセゾピジンA〜HおよびJ〜Lを分離した。このうちのタキサスピンB,C,Jおよび数種の既知タキサン化合物に上記耐性発現細胞においてビンクリスチンの蓄積増強作用が認められ、その強さは既知のP-糖タンパク質機能阻害物質として知られるベラパミルとほぼ同等であった。また、このうちのタキサスピンCに、マウスを用いたin vivoの実験で耐性克服能が認められた。一方、タキサスピンD、タキセゾピジンKおよびLには、タキソールの1/2〜1/3程度の微小管脱重合阻害活性が認められた。また、タキサスピンDはウニ受精卵における紡錐体の異常形成を引き起こすことがわかった。一方、本イチイに含まれる主タキソイドのタキシニンを用いて、2位、5位、9位、10位および13位にシンナモイル基およびベンゾイル基などのかさ高い官能基を導入した各種誘導体を合成し、多剤耐性癌細胞における抗癌剤蓄積増強作用を調べた。その結果、2位、5位および13位にかさ高い官能基を1つだけ持つ化合物が顕著な活性を示すことを見い出した。さらにタキシニンを用いて種々化学変換を検討し、輿味深い反応および特異な構造を有する化合物を見い出した。現在、より耐性克服能の強いタキサン化合物の分子設計を検討中である。
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