研究概要 |
新型医薬品や液晶化合物の研究分野において,光学活性含フッ素化合物は極めて重要な地位を占める.そのため,含フッ素化合物の不斉合成研究が活発に展開されている.なかでも,不斉フッ素化反応は,アキラルなケトンを,光学活性なα-フルオロケトンに一挙に変換する簡便な方法として注目されている.このような背景下,我々は数年前より不斉フッ素化反応剤の開発研究に取り組み,これまでに2つのタイプのフルオロスルタム型反応剤,CMIT-FおよびBNBT-Fを開発することに成功している.これらはいずれもエノレートのフッ素化において,比較的良い不斉収率を与えることがわかったが,不斉誘起能力のみならず,反応性の点においてもまだ所期の目的を達成したとは言い難い.そこで今回,より優れた不斉フッ素化剤の開発を念頭に,先の反応剤の構造に化学修飾を施した新たなフルオロスルタム,BMIT-Fの合成を計画した.BMIT-Fの前駆体である5員スルタムは,サッカリンより容易に合成することができた.まず,サッカリン1をメチルマグネシウムヨージドおよびtert-BuLiと反応させてジアルキル体2を得た.次に,2の芳香環部を硝酸/硫酸条件下でニトロ化し,フッ素化剤の前駆体である5員環スルタム3をラセミ体として得た.(±)-3を(-)-塩化メントキシアセチルと縮合してジアステレオマー混合物4_Lおよび4_Mとし,両異性体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離した.得られたジアステレオマー異性体を水酸化リチウムで加水分解して,それぞれ光学活性な(+)-4および(-)-4とした.最後に,フッ素ガスを用いてこれらアミド体にフッ素化を施し,目的の光学活性フルオロスルタムBMIT-Fを収率よく得た.
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