研究概要 |
本研究は,ミオシン軽鎖キナーゼ阻害薬を消化性潰瘍治療薬として応用する可能性を探るというものであり,全く新しいタイプの治療薬の開発を目的とした.今回,壁細胞において,既存の酵素とは異なったミオシン軽鎖キナーゼ,及びその新規の基質候補が存在し,特有の制御機構が働いている可能性を示すデータを得た.このキナーゼの新規の基質として100kDa蛋白を同定した.この蛋白は精製後,部分シークエンスによって,細胞骨格系蛋白Menaのウサギホモログである可能性が見出された.Menaはアクチン重合に関与し,そのプロリンリッチドメインを介してSH3ドメインとも相互作用する事が提唱されている興味深い蛋白である.Menaのリン酸化による制御は未だ知られておらず,新規の薬物ターゲットとして提案することができた.本酵素を抑制する薬物のリード化合物を見出すため,既存の薬物のほか,協和発酵工業研究所より提供された化合物群について,単離胃底腺を用いた抗分泌作用,およびミオシン軽鎖キナーゼ阻害作用のスクリーニングを行った.本酵素は通常のミオシン軽鎖キナーゼとは異なり,カルモジュリン依存性を示さず,通常のカルモジュリン阻害薬は無効であり,各種キナーゼ阻害薬もその特異性範囲内では無効であった.ATP結合部位に作用するミオシン軽鎖キナーゼは抑制作用を示し,協和発酵工業研究所提供の化合物中に,抑制効果を示すものが認められた.そのうち2化合物が実際に酸分泌抑制作用を示したので(IC_<50>約10μM),この2化合物をリードとして,臨床応用可能な薬物を開発できる可能性が示された.
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