レチノイン酸の核内受容体RARおよびRXRに対する特異的リガンドのデザイン、合成を行い、そのレチノイドもしくはレチノイド作用制御活性を評価した。まず、本研究者が見いだした芳香族レチノイド(RARアゴニスト)の構造活性相関をRXRリガンドの設計に応用し、強力なレチノイドシナジスト活性をもつジフェニルアミン誘導体を見いだし、その構造活性相関を明らかとした。RARおよびRXRを用いた転写活性化試験の結果、レチノイドシナジスト作用を示すジフェニルアミン誘導体はRXR選択的アゴニストであった。更に、ジフェニルアミン誘導体の安息香酸をピリミジンカルボン酸に変換した結果、より強力なRXR選択的アゴニストを見いだした。 ついで、レチノイドの構造に必須な官能基であるカルボキシル基をチアゾリジン環で代替した化合物を合成したところ、レチノイン酸もしくは芳香族アミド骨格を持つレチノイドにチアゾリジン環を導入した化合物がレチノイド活性を有することがわかった。ある種のチアゾリジン誘導体は核内受容体の一つであるPPARのリガンドとなることも報告されており、新規チアゾリジン誘導体が核内情報伝達系において特徴的な作用を発揮すると考えられる。また、この結果を応用して、チアゾリジン骨格を持つ新規チロイドホルモン様物質を見いだした。 また、これらRXR選択的アゴニストの構造の吟味から新規RXRアンタゴニストを創製した。RXR(ホモダイマー選択的)アンタゴニストは現在までに一例報告されているが、その化合物はRAR・RXRヘテロダイマーに対してはアゴニストとして働くので、本化合物は全く新しい作用を有するレチノイドアンタゴニストである。 以上、見いだした化合物の中には受容体選択性ばかりでなく、核内受容体ヘテロダイマー選択性をもつものもあり、核内情報ネットワーク解明の優れたツールとなり得る。
|