本年度は、合成高分子・DNA複合体のモデルとして開発したペプチドディスプレイ・ラムダファージの系をさまざまな角度から解析し、このアプローチが核へのDNAのターゲティングに有効であることを確認した。具体的にはまず、DNAをSYBR Greenで染色したファージを細胞内に導入することにより、DNAの局在を直接観察できる系を確立し、ファージ表面の核移行シグナル依存的にDNAが核内に移行していることを確認した。また現在、タンパク質の核移行を研究する標準的な系となっているDigitonin処理Semi-intact細胞を使ったin vitro系においても同様の結果が得られることを確認した。以上の結果は、核への能動的ターゲティング能を有する合成高分子・DNA複合体の開発に必要な情報(サイズとシグナル)を提供するものであり、4年間の本研究の目的であった「非ウイルスベクターに生物学的機能を付与するための基礎研究」という目標を達成できた。 また本年度は、遺伝情報の核での安定化という目標を達成するために、染色体DNAが安定化する機構をテロメア(染色体末端)に焦点をあてて解析した。その結果、分裂に伴いテロメアが短くなると染色体が不安定になって細胞死が誘導されることが知られている初代培養ヒト線維芽細胞で、テロメア結合タンパク質TRF1を高発現させることで細胞の分裂寿命を約20回延ばすことに成功した。この実験結果は、テロメア配列(TTAGGG)とTRF1の相互作用で核内DNAの安定性が決定されていることを示している。テロメアはループ状の構造(t-loop)を取っていることが知られており、TRF1は環状DNAに組み込まれたテロメア配列にも結合することから、核内の環状DNAも同様にテロメア配列特異的に安定化できることが期待できるので、現在、その可能性を検討している。この成果は、外来DNAを核で安定化できる可能性を強く示唆している。
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