研究概要 |
水中には多くの細菌が生息して有機物の分解者としての役割を担っているが,中にはビブリオ属菌のように水環境を本来の住処とする病原種がある。このような細菌は,通常は培地による培養法で検出可能であるが,近年いくつかの細菌で,明らかに生きてはいるが培養では検出できない状態(Viable but non-culturable:VNC)での存在が示唆されている。本研究は,我が国の食中毒起因菌として最も分離頻度の高い腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)のVNCに関する情報を得ることを目的としている。前年度の研究において,ストレス環境下におけるV.parahaemolyticusの生存に及ぼす栄養条件および平板培地での培養時におけるnonculturable状態からculturable状態への復帰条件等についてに検討を加え,低温・飢餓ストレス環境下での生存,栄養条件の影響,窒素化合物の影響,ラジカルスカベンジンジャー(BHA、BHT、Querucetin、Serum、BSA、Glycerol)の影響等について検討した。これらの知見を基に,本年度は実際の環境からの分離における種々の因子についての影響について検討した。 V.parahaemolyticusを分離する場合には,通常はアルカリ性ペプトン水やTCBS培地などの選択性のある培地を使うが,環境中でストレスを受けている細菌は培地のpHや界面活性剤などの影響で,増殖が抑制される可能性がある。海水からの分離に際して,アルカリ性ペプトン水による増菌培養を行う最確数法及び普通寒天培地に生じた集落をTCBS培地にレプリカする方法を比較すると季節とは無関係に常にレプリカ法の方が高いV.parahaemolyticus数が得られ,広い意味でVNCと呼べる細胞の中には選択性のない培地を用いれば培養可能のものが含まれると言える。
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