研究概要 |
細菌の中にはBacillus属やClostridium属など,好ましくない環境に遭遇すると芽胞を形成して休眠するものがあるが,近年いくつかの細菌で,芽胞は形成しないが,形態機能を変化させて環境変化に耐える細菌が存在すると考えられるようになった。このような細菌は,明らかに生きてはいるが培養では検出できない状態(Viable but non-culturable:VNC)で存在している。本研究は,我が国の食中毒起因菌としての腸炎ビブリオなどのVNCに関する情報を得ることを目的としている。前年度までの研究において,ストレス環境下における腸炎ビブリオの生存に及ぼす栄養条件,実際の環境からの分離における種々の因子についての影響について検討したが,本年度はそれを継続して総合的とりまとめを行った。腸炎ビブリオを分離する場合には,通常はアルカリ性ペプトン水やTCBS培地などの選択性のある培地を使うが,環境中でストレスを受けている細菌は培地のpHや界面活性剤などに感受性が高く,増殖が抑制される。しかし,普通寒天培地に生じた集落をTCBS培地にレプリカする方法と直接選択培地を使う方法を比較すると常にレプリカ法の方が高い腸炎ビブリオ数が得られ,広い意味でVNCと呼べる細胞の中には選択性のない培地を用いれば培養可能のものが含まれることが示された。したがって,環境調査や食品衛生調査においては,臨床検査用の培地ではなく,ストレスの少ない培地の利用が必要と言えるが,操作が複雑になってしまう。このような問題に対処するためには種々の分子生物学的な方法が有効であり,Reverse transcription polymerase chain reactionを応用した生細胞の簡便な分離法を開発した。
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