発現組織が入手困難な遺伝子の解析はこれまではゲノム遺伝子構造の解明を待たなくてはならなかった。本研究では非特異的な組織の微量mRNAからの組織特異的な遺伝子の検出の可能性を検証し、ゲノムDNA情報が不要となる血液中の微量mRNAを用いた迅速遺伝子解析法を開発と実用化を目指した。末梢血液検体から抽出したmRNAよりRT-PCRを行いて種々の条件で増幅し、ヨード輸送蛋白(NIS)のcDNAのバンドを確認し、迅速遺伝子解析法が可能であることを示した。次にNIS遺伝子にV59E変異とT354P変異とをヘテロに有する症例の末梢血液検体と甲状腺の両者で第59アミノ酸のコドンでは正常のアリルをV59E変異より多く認めたが、第354アミノ酸のコドンでは正常のアリルをT354P変異より多くないし同等量認めた。ゲノム解析でV59EとT354Pのアリルの複合ヘテロ接合体であるので、V59EとT354Pの変異部位の増幅がともに低いのは増幅効率が異なることによる可能性が考えられた。そこで、NISの第59アミノ酸と第354アミノ酸のコドンを併せた領域を一度PCR後、nested PCRにより各々の領域をPCR後、制限酵素切断してV59EとT354Pの対立アリルの量を検討したところ、V59Eでない正常のアリルとT354Pのアリル、即ちWT-T354Pアリルを特異的に認めた。これは、これまでの高感度PCRより増幅回数が増えたことにより、増幅効率の差がより拡大したものと考えられた。このような増幅の差が生じた原因としては、一塩基置換が単独で大きく増幅効率に影響した可能性と、一塩基置換の影響に加えmRNAで無くなったイントロン配列も併せた塩基配列が影響した可能性の2つが挙げられる。結論として、非特異的な組織の微量mRNAからの組織特異的な遺伝子の検出は可能であったが、微量mRNAを用いた迅速遺伝子解析法の実用化には、一塩基置換によるPCR増幅効率の差がボトルネックになり、汎用化には注意が必要なことが示された。
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