研究概要 |
実世界の組合せ最適化問題に対する高速解法を構築するのが本研究の目的である.本研究では,実世界問題を和積形論理式の充足可能性問題(SAT)に変換し,SATに対する高速アルゴリズムを利用して元の問題を解くというアプローチをとる.本研究では,具体的問題として,大学院学生を研究室に配属する学生配属問題を取り上げた.SATに変換して解くという手法の有効性を評価するためには,学生配属問題自体の複雑さを知る必要がある.本年度は,学生配属問題の一般化である安定結婚問題の複雑さの議論を行ない,以下のような結果を得た.(1)安定結婚問題は,同数(N人)ずつの男女が異性に対する希望リストを持っており,安定なN組のペア(安定マッチング)を求める問題である.この問題のリストに対する自然な条件緩和として,(i)リストに異性全員を書かなくて良いもの,(ii)リストに同順位を許すもの,が考えられている.緩和を許さない問題,および,(i),(ii)のうちどちらか一方の緩和を許した問題は,解の存在を多項式時間で判定できることが知られていた.しかし,両方の緩和を許した場合に対しては未解決であった.本研究では,両方の緩和を許した場合に問題がNP完全になることを示した.(2)安定結婚問題にコストを導入した最適化問題を考えることができる.すなわち,安定マッチングの中で,できるだけ多くの人が希望の高い相手と結ばれる解を求める問題である.本問題で(i),(ii)のどちらの緩和も許さない場合には,最適解が多項式時間で求まることが知られていた.本研究では,(ii)の緩和のみを許すだけで問題がNP困難になり,しかも良い近似アルゴリズムが存在しないという強い証拠を与えた.
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