研究概要 |
生体内において,一番よく知られている分子モーターは筋肉内のアクチン・ミオシンである.この系は昔から盛んに研究が行われている.しかし,他の分子モーター,細胞内輸送タンパク質,生体膜上に存在するエネルギー変換タンパク質はその収量が非常に少ない,という問題に加えて,これら生体膜上で働くタンパクは生体膜に組み込まれて本来の機能を発揮できるのため,今までの研究方法のようなガラス上に固定して観察する,という方法では生体内に近い系での観察は困難である. 我々は,新しい計測システムを開発するために,人工平面膜に着目した.人工平面膜は主に電機生理の研究で使われてきた技術であり,2つの接したチャンバーの境界に微少な穴(直径約100mm)をあけ,そこに脂質二重膜の形成・イオンチャンネルの組み込みをおこなうことにより,従来のパッチクランプ法より自由度を持った計測システムである.このシステムは電機生理を主な目的とした系であるので,我々の目的である,運動タンパク質1分子を観察・操作・計測するにはそのままでは不十分である.従って,我々は光学顕微鏡上で人工平面膜を形成することを試みている. 光学顕微鏡上で観察・操作・計測可能な人工平面膜を作成するには, ・ 対物レンズで観察可能な状態(ステージに対して,平行に)で形成する. ・ 底面から中数ミクロン程度の距離に形成する. ・ 蛍光観察のため自家蛍光などがない状態で形成する. ・ 人工平面膜の上下環境が独立である. ・ 溶液交換などの自由度がある. ・ 平面膜形成が簡単に行える. などが要求される. 現在,このような要件を満たすシステムを開発中である.このシステムの開発が成功すれば, ・ べん毛モーターの回転とイオンの流れの直接観察 ・ FIFOの回転とイオンの流れの直接観察 ・ 膜接着型運動タンパク質,ミオシンIの運動の観察,機能解明 など様々な分野に応用していきたい.
|