我々は、車軸藻ミオシンを力学測定し、その運動メカニズムについて解明することを目的としている。車軸藻細胞内の原形質流動の動力源は、車軸藻ミオシンとアクチンフィラメントの相互作用であることがわかっている。運動タンパクであるミオシンは、アデノシン3リン酸(ATP)をADP PとPiに加水分解することで力を発生し、滑り運動を行うことができる。車軸藻ミオシンは、in vitro滑り運動の観察により、滑り運動速度が〜60μm/sであるという報告があり、骨格筋ミオシンの滑り運動速度が〜6μm/sであることを考えると、10倍もの速い運動が可能ということになる。どのような運動機構の違いによって、この様な速い運動が可能になるのか、生体分子の運動メカニズムを解明する上でも非常に興味深いところである。 そこで我々は、骨格筋ミオシンの力学測定に広く用いられている光ピンセット法を用いて、車軸藻ミオシンを力学測定することにした。光ピンセットとは、レーザーを集光することで微小な誘電体粒子を非接触で捕らえることのできる技術である。我々の作製した微小変位計測装置では、そのバネ様の捕捉力を利用して、捕捉した微小粒子をプローブとして用い、ミオシンによる変位をナノメートル・ミリ秒レベルで測定することを可能にしている。 今回、初めて車軸藻ミオシンの力学測定を行った結果、車軸藻ミオシンによって引き起こされた相互作用の測定に成功した。数分子の相互作用で約34nmの階段状変位を確認することができ、低ATP濃度下での1分子程度の相互作用でもほぼ同じ大きさの変位を確認することができた。アクチンフィラメントのらせんのハーフピッチが約36nmであることから、アクチンフィラメントのハーフピッチごとの滑り運動を行っているといえる。力発生の1サイクルの時間が骨格筋ミオシンと同程度であり、骨格筋ミオシンの1ステップが〜11nmであることから、この34nmという大きな変位が、車軸藻ミオシンの速い滑り運動の一因であることが示唆された。
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