生体機能の分子メカニズムを解明するためには、個々の生体分子を蛍光色素を用いて可視化し、その機能を1分子レベルで調べる方法が有効である。従来の技術では、生きている細胞の中で個々の生体分子をイメージングすることは困難であった。これを実現するための顕微鏡法の開発を行った。局所励起を行うために共焦点顕微鏡(CSU10;横河電機製)を改造し、蛍光色素1分子をビデオレートで観察することに成功した。実際に1蛍光分子がイメージングできていることを、蛍光強度の分布と蛍光色素の退色が量子的になることで確認した。観察対象のモデル細胞として偏平、透明で培養が容易なA6細胞を用いた。この細胞に1分子観察条件の励起光を当てたところ、強い自家蛍光が細胞質内に観察されたが核内には見られなかった。核内が1分子蛍光イメージングに適していることが分かったので、テトラメチルローダミンで蛍光標識したologo(dT)をmRNAのポリA部分に結合させ、1分子mRNAのイメージングを試みた。核内に数千個のoligo(dT)を注射して観察したところ、ブラウン運動が速すぎてほとんどのoligo(dT)は輝点として見えず背景の蛍光強度が増大するだけだった。しかし、15%のoligo(dT)は輝点として捉えることができた。この輝点の数は、強力なプロモーターをもつプラスミドを同時に注射してmRNAの発現量を増大させると増加し、注射後1時間後にはほとんど全てのoligo(dT)が輝点として観察された。一方、ポリA部分に結合しないoligo(dA)では輝点は観察されなかった。以上の結果は、mRNAと結合してブラウン運動が遅くなったoligo(dT)が輝点として見えていることを示唆している。見かけの拡散定数は4μm^2/sであり、この値は溶液中を自由拡散するmRNAの拡散定数と良く一致していた。
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