生きた細胞内の1分子蛍光観察で問題となるのは、細胞の自家蛍光である。これを最少にするため、共焦点蛍光顕微鏡の照射系に改良を加えて長波長の可視光線(黄色や赤色)でも励起できるようにした。その結果、自家蛍光にあまり影響されることなく、1分子の蛍光観察ができるようになった。また、細胞内の生体分子を共焦点蛍光顕微鏡で観察する際の問題点は、生体分子のブラウン運動ために光学的断層面を通過する短時間しか運動の軌跡を追跡できないことである。これを克服するために対物レンズを振動させ、2次元に投影した分子の軌跡を数秒にわたって追跡できるようにした。以上の改造を行った顕微鏡を用いて以下の研究を行った。 (1)核内のmRNAの運動解析 改造した共焦点蛍光顕微鏡を用いて、核内のmRNA1分子の動きを観察することができた。mRNAを蛍光色素で直接、あるいか蛍光オリゴdTと結合せることにより蛍光標識した。このmRNAの動きを解析したところ、平均の拡散定数は0.2[μm^2/s]でブラウン運動していた。この値は、水溶液中で測定した値の約1/24であった。mRNAの核膜孔への輸送が能動的な輸送でなく拡散によることを支持する結果となった。 (2)シャペロニンによる変性タンパク質の折りたたみ機構の研究 蛍光標識したGroEL、GroESとGFP(緑色蛍光タンパク質)を用いて、それぞれの分子を1分子レベルで可視化し、分子間相互作用の様子をリアルタイムでイメージングすることに成功した。その結果、従来はATP加水分解反応が唯一の律速過程と考えられていたシャペロニンの反応サイクルに未知の中間状態が存在し、時定数3秒と5秒の2段階反応であることが明らかになった。また、新たに見つかった中間状態は、GroELがGroESと変性タンパク質を同時に結合した状態であることを示唆する結果を得た。
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