研究課題
脳の構造・機能を知るためには、複雑であるが秩序だった神経回路網に関する詳細な知識が不可欠である。すなわち機能的に関連したニューロンどうしがどのような配線様式でつながっているか、を体系的に明らかにする必要がある。そのために私たちは小麦胚芽レクチン(WGA)遺伝子をトランスジーンとして特定のニューロンに発現させ、そこを起点とする神経回路を可視化する技術を考案した。平成10年度にWGAトランスジーンのシステム確立のために小脳遠心性経路およぴ嗅覚経路を可視化したトランスジュニックマウスを作製し、1次ニューロンにおけるWGAの産生と軸索末端までの輸送、2次ニューロンへの経シナプス性の取り込みとその投射領域のラベリング、さらには3次ニユーロンヘの取り込みを観察した。平成11年度においてはさらに視覚経路を可視化したトランスジェニックマウスの作製に成功した。また、WGAを発現する組み換えアデノウイルスを作製し、その有効性を確認した。a.視覚経路可視化マウス網膜において桿体双極細胞に特異的に発現するL7プロモーターの支配下にWGAを発現するトランスジェニックマウスを作製した。このL7-WGAマウスにおいては、網膜双極細胞にWGAが特異的に発現し、AIIアマクリン細胞、錐体双極細胞を経由して神経節細胞へ、さらには視神経から視床外側膝状体および中脳上丘ニューロンまでWGAが輸送されており、視覚情報の伝達経路を可視化することに成功した。b.WGA発現組み換えアデノウイルス普遍的かつ強力なCAGプロモーターの支配下にWGAを発現するアデノウイルスを作製した。このウイルスをマウス鼻腔内に感染させたところ、嗅上皮の嗅細胞にWGAの発現が観察され、その標的細胞である嗅球の僧帽細胞/房飾細胞へとシナプスを介して輸送され、さらにその投射部位である嗅皮質が選択的にラベルされた。本ウイルスにより、トランスジェニック技術の確立していない動物種においてもWGAトランスジーンを応用できると考えられる。
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