本研究では、マウスおよびラット始原生殖細胞および精原細胞から培養細胞株を樹立して、さらにこれを配偶子まで分化させる系を確立することを目的とした。そのためにまず、すでにマウス始原生殖細胞から樹立された全能性、細胞株であるEG細胞を、生殖隆起体細胞と共培養した時に、この細胞が始原生殖細胞に分化している可能性があるかどうかをマーカー遺伝子の発現により調べた。その結果、始原生殖細胞で特異的に発現しているmVH遺伝子の発現が誘導され、さらにその効果は、EGFによって置き換えられることがわかった。このことから、EGFにより、EG細胞が始原生殖細胞としての性質を持つように分化誘導されることが示唆された。一方、新たな精原細胞株を樹立する目的で、当研究室ですでに得ているBcl-2を精原細胞で過剰発現するトランスジェニックマウスの精巣を解離後、STO細胞フィーダー上で培養した。培養後、生殖細胞特異的なTRA98モノクローナル抗体で染色し、生殖細胞数の経時変化を調べたところ、正常マウスでは培養開始後30日以降生殖細胞は消失したが、このトランスジェニックマウスでは45日まで生殖細胞が確認され、より長期間にわたって培養下で維持できることがわかった。さらに、精母細胞以降の生殖細胞を特異的に認識するTRA369モノクローナル抗体で染色した結果、培養開始後10日目で、10%程度の生殖細胞がこの抗体陽性の精母細胞に分化していることがわかり、Bcl-2トランスジェニックマウスの精原細胞は培養後も分化能を保持していることが明らかになった。
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