本研究の目的は、ヒト神経疾患の病因や発症機序を解明するためのモデル動物を開発し、解析することである。そのために2つの方向から研究を進めてきた。1つは遺伝子工学と発生工学の手法を用いたヒト神経疾患解析モデルマウスの開発であり、他の一つは、慢性的な過程をたどる神経細胞壊死を起こす実験モデルの開発である。前者の研究では、P1ファージのcre- l oxP組換え系を用いて、中枢神経系の特定の細胞で時期特異的に目的の遺伝子の組換えを起こすシステムの開発に成功した。プロゲステロン受容体とCreリコンビネースの融合タンパクであるCrePRがプロゲステロンアンタゴニストにより活性が誘導されることを確かめた。次に、部位特異的に組換え酵素Creを発現するマウスを作成するために、小脳顆粒細胞に選択的に発現するNMDA受容体チャネルε3サブユニットと小脳プルキンエ細胞に特異的に発現するグルタミン酸受容体チャネルδ2サブユニット遺伝子を選択し、これらの遺伝子の制御下にCrePRを発現するノックイン型のマウスを作成した。Cre組換え酵素活性によって、lacZ遺伝子が発現するトランスジェニックマウスとこれら変異マウスとを交配したレポーターマウスを用いて、アンチプロゲステロンRU486により遺伝子組換えが誘導されることを確認した。これらのマウスを用いることにより、成体における神経細胞特異的な遺伝子発現調節が可能になり、病態モデル作成への道が開けた。後者の研究では、慢性的な経過をたどり神経細胞が変成壊死する緑内障をモデルに選び、その再現モデル動物の作成を進めてきた。まず、慢性的高眼圧モデルを作成するためのマウス眼圧測定法を開発した。さらに長期にわたりマウスの眼圧を高められる方法を開発した。一方、一過性の虚血で引き起こされる神経細胞の壊死にNMDA受容体チャネルが関与していることをノックアウトマウスを用いて明らかにした。
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