研究概要 |
平成10年度に引き続き、青森杢沢遺跡、宮城柏木遺跡、福島武井B遺跡の出土鉄滓に加え、近年発掘後未解析の、秋田県泉台遺跡出土鉄滓の詳細な組織解析と成分分析を行なった。また、東方各地の鉄生産遺跡の炉内反応および温度状況の復元実験と反応生成物の組織の同定を試みた。すなわち、秋田県泉沢中台遺跡出土滓のために米代川(鷹巣町付近)、宮城柏木遺跡付近の七ヶ浜海岸、福島武井地区遺跡付近の地蔵川付近、等の砂鉄を採取した。砂鉄/木炭は、(1:1,1:2,1:5,1:10)と種々混合比を変えて、大気炉で1373K(1100℃)〜1623K(1350℃)で焼成した。焼成試料は光学顕微鏡およびレーザー顕微鏡観察を行った。また、組織に対応した成分分析をするために、走査電子顕微鏡(SEM)観察も行った。 主な結果は以下の通りである。(1)福井県武井地区、地蔵川下流の砂鉄(着磁率:20.3%)が採取でき、復元試料が作製できた。(2)多くのたたら復元炉で用いられる砂鉄/木炭の配合比〈1:1〉よりも、〈1:2〉の方が組織変化が安定して明確に表れる。(3)復元焼成材では、報告されている武井地区出土滓組織との比較により、多くの類似する組織が確認でき、炉の形状や炉内反応などの推定に有効であることが分かった。(4)組織中の硬度測定によって、組織の同定、反応状況の簡単な推定が可能である。 これらの研究により、日本海側の古代製鉄技術は、多賀城、武井地区遺跡を中心とした太平洋側の場合とは多くの相違があり、気候、燃料(木炭の種類)、炉構造などの鉄生産環境の差異を斟酌したとしても、古代東北の文化や生産技術の流れにおいて、大きく異なる経路が外にも存在した可能性が、金属学的見地から、明らかになった。
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