心がその一部である世界についての「理解のあり方」における心の占める位置についてのアリストテレスの立場と意義を確定するという本研究の全体としての狙いを遂行するためには、狭い意味での心の哲学のみならず行為や倫理的評価、さらには世界のあり方に関して重要な位置を占める「規範」的なものである「目的」概念の意義を明らかにする必要があるとの考え方もとづき、そのための作業として本年度は、現代の心の哲学において標準的な立場であると思われ、またしばしばアリストテレスがその先駆的形態を示しているとされる「機能主義」的なアリストテレス理解に対してバーニートをはじめとする何人かの古典研究者が提出した批判を検討する形での『霊魂論』のテキストについての分析と、目的論について本格的に検討すべく『形而上学』第12巻についての予備的な検討作業、そして現代の進化論的な生物学についてのサーベイ作業を行った。 これらの作業は、アリストテレスの心の哲学における「目的」概念は、『形而上学』や『政治学』において示唆されながら必ずしも十分な注意と関心が払われることのなかった宇宙論的な「目的」概念と、現代の進化論的な生物学ならば「適応」という概念で語るであろう「機能」についての考え方との「狭間」の微妙な位置を占めているとの見通しのもとになされている。倫理学的な問題と関連する形でなされた進化論的生物学に関する作業の一部は「「応用倫理学とは何なのか」と問う必要があるだろうか?」において、また世界の理解のあり方における「規範」的な枠組みの意義については責任論との関わりでその一部を「責任と情報倫理」において論じた。
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