本年は意識の現象学の基本を探るために、第一に、フッサールの現象学の基本枠組みを改めて見直す作業を行い、そのなかでの意識概念の位置付けを行った。フッサール現象学の方法概念として知られている「現象学的還元」は、決して世界から切り離された「意識」へ現象を還元することではなく、むしろ、さまざまな問題現象にふさわしい仕方で現象を見て取るための方法的指針であり、この点で、現象学のいう意識は決してデカルト的二元論の枠組みで語られるような、物質と全く対立する精神のような実体としては捉えられないことを再確認した。この点は、事物知覚や時間意識、あるいは他者知覚などで、「現れないものを伴った現れ」という志向的体験の特徴の場合に、顕著である。このような基本的観点に基づいて、第二に、特にイメージや色などの現象に即して、具体的な現れ方の分析を行うことを試みた。現象学的心理学者の手引きにしたがって、イメージの現れ方の固有な次元、色の現れ方の固有な次元を取り出すことによって、フッサールの基本洞察の展開可能性が示されると同時に、そうした「意識現象」にとって、心理学、生理学、あるいは認知科学などの研究成果が批判的に取り込まれうることが明らかにされた。このように考えることができるなら、最近の心の哲学での意識の質や主観性の議論に典型的に見られるように、意識現象の還元可能性か不可能性かという二者択一の対立を自明視する必要はないことになる。「意識現象」の固有性を確保することによって、それに基づいてそれぞれの科学的な分析に一定の「存在論的位置」を割り当てることができるようになる。ちょうど色彩知覚において、照明、事物の表面、光線、網膜、神経系が成立の条件を占めているように、意識にとっての科学的分析とは、その「奥行き」を形成していると言うことができる。
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