研究概要 |
今年度の研究では、エピクロスとルクレティウスの生命論の問題点を、プラトンの幾何学的アトミズムと生命理論と比較することで確認した。エピクロスとルクレティウスの場合に生命論の中核を構成する魂が、前者は熱(thermon)と風・気息(pneuma)と最も微細なアトム(akatonomaston)の,3つ、後者は熱(calor,vapor)と風・気息(ventus,aura)と空気(aer)と名前のないアトム(nominis expers)という4つのアトムから構成されている。かれらの生命論の最も大きな問題点は、魂を構成するアトム同士を結びつける力はどこから与えられるかという疑問である。名前のない最も微細なアトムが、魂を組織化し魂を動かす最初の動を与えるとされているが、そのことは、形と大きさと重さの違いしかないとしたかれらのアトムの規定を逸脱しており、特殊なアトムを想定し、そのアトムに生命現象の自発性の要因を一方的に帰しているだけである。他方、プラトンの幾何学的原子論においては、幾何学的な原子の組み合わせの動因として、プシューケー(魂)の力が要請されている。プシューケーが、広義の宇宙論においては、自らを動かす動と規定される。その自動者としてのプシューケーの動が、他から動かされて動きそのことによって他を動かす動、すなわち物体の動と区別される。後者の動の系列を遡源していけば、最初に動を与えるものは、自らを動かす動でなければならないからである。つまり、物質による生命現象の説明は、必ずや最初にその動を与えるものを想定せざるをえないことが、プラトンと古代アトミズムの生命理論の比較研究によって明らかになった。続いて、ロック、バークリー、ヒューム、デカルト、ライプニッツの著作のCD-Romデータベースによって、近代自然科学設立期における古代原子論の受容と批判の研究に着手し、アトミズムなどをキーワードにテキストの分析を行った。
|