1. 本年度の前半は、1277年にパリ司教エテイエンヌ・タンピエが出した禁令の内容を精査することにあてられた。その際、考察の中心となったのはその禁令が対象としているパリ大学学芸学部の教師たちの著作にあらわれている思想との関連である。その結果、禁令が非難しているいわゆる「二重真理説」という立場が、決してそのままの形では学芸学部の教師たちの思想のうちには見出されないことが確認されることとなった。 2. さらに、禁令の対象となったとされるダキアのポエティウスの著作『最高善について』と『世界の永遠性について』が精査された。その結果、そこに見られるのは決して単純な理性主義というべきものではなく、キリスト教神学との区別・対比における「哲学」なる知的作業の分業化というべきものであるという解釈を提示するに至った。すなわち、アリストテレスの枠組による世界理解を最終的な真理とするわけではなく、キリスト教の創造論との関係では、哲学的知を下位の秩序にあることは承認されているのである。その承認のもとで「哲学」を神学とは独立した知のあり方として限定し、「哲学者」の自律性を主張していると見なし得るのである。 3. このポエティウスの立場は基本的にブラバンティアのシゲルズにも認められることも、本研究によって大枠では確認された。来年度は、さらにシゲルスに関する考察を継続するとともに、13世紀末から14世紀にいたるより広い視野で1277年の断罪が与えた影響を踏査することが予定されている。
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