研究概要 |
平成10年度の研究結果によれば、デカルトにおいてもロックにおいても、観念は新たな物そのものの措定との関係を基本的に有している。これに対して、バークリの物質否定論においては、この新たな物そのものの存在が否定され、その結果、観念と心からなる二項関係的枠組みが採られることになり、観念論が帰結する。他方、カントの認識論的枠組みでは、ロック的三項関係(物そのもの、観念、心からなる)が基本的に維持されてはいるものの、物そのもの(物自体)が形骸化するとともに、仮説的方法への正当な関心が失われている。 こうした知見を念頭に置きながら、本年度(平成11年度)は、ロックの観念説にたち帰って、観念の自然主義的論理空間のあり方を再検討した。まず、ロックの観念説が、どのような仕方で自然主義的発生論的過程の痕跡を残しており、しかも、その過程が、完成後の観念説においてどのような本質的機能を担っているかを、明らかにするよう試みた。その成果は、「ロックの「観念」の論理空間・再考」(『思想』2000年第4号[第910号])として公にされる予定である。また、関連する話題を扱った"Yolton on Cartesian'Direct Realism'"in Stephen Gaukroger,John Schuster,& John Sutton(eds.),Descartes'Natural Philosophy(London,forthcoming)も、近く刊行される予定である。次に、ロックの自然主義の本質を明らかにすべく、リチャード・ローティのロック解釈に対する批判を試みた。この結果も、"Rorty and Locke"(仮題)として、近くアメリカで公刊される予定である。
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