研究課題/領域番号 |
10610010
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
新島 龍美 九州大学, 大学院・比較社会文化研究院, 助教授 (50172606)
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研究分担者 |
菅 豊彦 九州大学, 大学院・人文科学研究院, 教授 (50091385)
納富 信留 九州大学, 大学院・人文科学研究院, 助教授 (50294848)
神崎 繁 東京都立大学, 人文学部, 助教授 (20153025)
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キーワード | アクラシア(無抑制) / 実践的推論 / 知覚的能力 / 倫理的価値 / 現れ / 共通感覚 / 認知主義 / 非認知主義 |
研究概要 |
新島龍美は、アリストテレスにおけるモラル・リアリズムの可能性の要となる賢慮(プロネーシス)の概念を、アクラシア(無抑制)の現象の解明を通して、考察した。アリストテレスは、実践的三段論法の構造に照応させながら、無抑制の原因を一種の無知に見る。その際、多くの解釈者が考えるように、実践的推論のどこか一部分の把握に問題があるのではなく、その全体において問題があることを明らかにするとともに、推論能力の卓越性である賢慮が、一種の知覚的能力であることの意味の解明を試みた。 神崎繁は、アリストテレス的実践理性であるプロネーシスの概念と、それによる道徳的実在論の可能性を、広く古代ギリシア哲学の視点から、検討した。 納富信留は、本年度は昨年度の研究を承けて、ギリシア哲学における「倫理的価値」への接近を、「現れ」と「実在」との関わりから考察した。アリストテレス倫理学において、倫理的価値が「思われる(現れる)」、或いは「感じる」という形で判断されることは、「こころ」が倫理的価値に関わるあり方が外界の実在の感受として考えられていることを示す。その際に問題となる現れの非実在論を批判的に検討し、倫理的な価値が後世「共通感覚(コモン・センス)」とよばれる一種の総合的感覚(センス)において捉えられる可能性を検討した。 菅豊彦は、「価値判断は真偽が問題になるような信念ではなく、心的態度の投影にすぎない」とする非認知主義に対する批判を通して、認知主義、モラル・リアリズムの可能性を検討した。その際、重要な手がかりとして、判断の客観性をめぐって、実在論・認知主義の立場と反実在論・非認知主義の立場にどのような相違が存在するかを考察すると共に、その相違がどのような前提に基づき、また、どのような帰結をもたらすかを探った。
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