報告者はこの十年来、北宋の六大家、即ち欧陽脩・曾鞏・蘇洵・蘇軾・蘇轍・王安石と道教の関係、及ぴ蘇軾・蘇轍の子孫を含む蘇氏一族と道教との関係について考察を進めてきた。研究費を得た平成10・11年度の研究の中心は、蘇軾・転轍と道教との関係の検討であった。蘇軾と道教に関しては平成10年に『蘇軾詩集』『蘇軾文集』等の記載をもとに雑誌『しにか』に「蘇東坡と道教』なる一文を発表した。そこでは副題を「三元・玉皇・虚明・内丹・天心」として、道教の重要な祭日である三元日と「赤壁の賦」との関わりなど5点について考察を加えた。平成11年には、自らの編著である『講座道教』第1巻に「玉皇大帝と宋代道教―蘇軾を中心にして―」と題して、蘇軾の道教思想全体をより詳細に論じた。そこでは、1.黄帝・老子の道と三元日、2.上清太平官と『荘子』・『黄庭内景経』、3.真宗時代の玉皇信仰と天慶観、4.玉皇大帝と蘇軾の4節に分かって考察を展開し、タオイスト蘇軾は、太宗・真宗の崇道政策の申し子と云えるのではないかという見解を提示した。また、同じく平成11年には、蘇轍と道教に関して、雑誌『新しい漢字漢文教育』に「蘇轍と道教」なる論文を発表し、1.赤松子と「服茯苓賦」、2.上清太平官・蹇拱辰・『霊宝度人経』、3.『欒城遺言』・老〓・『老子解』・三清の3節において検討を加え、蘇轍の道教思想と全真教の思想とは存外近いところにあるのではないかと論じた。現在は北来の張君房の『雲笈七籤』の研究に軸足を移行させており、研究成果報告書もこの『雲笈七籤』と北宋の道教との関わりを中心に論じた。
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