本研究は中国近代において民族や人種のレヴェルでナショナル・アイデンティティ形成がなされるにあたって、家という私的空間内から外の公共空間へ露出しだした女性が「内」なる他者として発見されてゆくことで、男性もあらためて自己規定していった過程を国民国家論にくみこんでゆくことをめざす。今年度において、五四期に盛んになった「疑似科学」としての優生学の源流やジェンダーの問題との関係を明らかにした「恋愛神聖と民族改良の「科学」--五四新文化ディスコースとしての優生思想--」(『思想』894号、1998年12月)を完成、発表するとともに、以下の二つの学会(1998.9)で研究発表をした。 ひとつはアメリカ、カリフォルニア大学サンタ・バーブラ校のカリフォルニア大学で開催された「梁啓超を中心とした清末・民国期の中国の西洋学解釈と理解」をめぐる国際シンポジウムに参加、「梁啓超におけるナショナル・アイデンティティ形成とジェンダーの関係」(アメリカで出版予定)について発表し、さらにハーヴァード大学等でもレビューを受けた。この発表では、梁啓超について、社会進化論的な人種観や「黄種」「白種」意識を色濃く反映した「新民」論、優生学的な「保種」「善種」との関連で主張された女子教育振興や早婚禁止、纏足廃止の主張、恋愛と納妾の体験等を分析した。 もうひとつは中国湖南省で開催された戊戌変法百周年・譚嗣同殉義百周年記念の「譚嗣同・湖南維新運動国際学術会議」に出席し、「譚嗣同におけるナショナル・アイデンティティ形成とジェンダーの関係」(中国で出版予定)について報告した。譚嗣同が進化論の導入によって華夷思想から脱却するとともに弱小民族を劣敗民族と位置づけた点、画期的な三綱批判における男尊女卑批判もまた「亡種」の恐怖と結びついていた点等を指摘した。
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