研究概要 |
本研究は平成10年度の追加採択となったので,図書の発注や調査旅行が可能となったのが11月はじめであった.このため当初の研究予定を大幅に遅れて遂行せざるをえなくなったが,研究全般のための基本的作業をかなりの程度に達成することが出来た.即ち,研究代表者は,本研究の中心的な研究対象となるクマーリラの著『韻文による評釈』(Slokavartika)のArthapati章についてテキスト入力を行い,この章全体の論述を詳細に分析した科段表を作成した.また,記号論理学の研究書を基に命題論理と述語論理との区別を了解し,クマーリラが本章において定式化したarthapattiは,インド論理学研究で一般に準拠される述語論理ではなく,命題論理の見地から解明するべきであるという見通しを得ることが出来た.さらに,論文「クマーリラにおける祭式構造論の転換」において,クマーリラが,ミーマーンサー学派で伝統的に個々の祭式の独自類型を表すのに用いていた術語apurvaを個人の自我のうちに形成される一種の潜勢力の意味に転換する際に,伝統的なapurva顕現説を離れてapurva生起説を採用しつつ,arthapattiとして定式化された背理法を祭式規定解釈の各段階で順次に応用していくことによって,必要最小限のapurvaのみを想定するのに成功したことを指摘した. 研究分担者は,それぞれインド仏教文献とヴェーダ文献とからarthapattiないし背理法に関連する叙述箇所を収集した.この収集成果を整理して,arthapattiの定式化における仏教論理学との交渉及びarthapattiを応用したヴェーダ文解釈の実際を解明する作業は,平成11年度に持ち越される.
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