研究概要 |
本研究の目的は、大乗仏教中観学派の創始者であるナーガールジュナ(龍樹)の主著『中論頌』の現在望みうる最善の英訳を完成・公表することと、同書やその他の龍樹の著作に見られる極めて破壊的な議論を論理学的に再評価することにある。 本報告書において、まず、龍樹の論法の本質が、先行するアビダルマの論師たちから受け継いだ「四句分別」と呼ばれる<枚拳法>と、おそらく彼自身の創案である<帰謬法>(プラサンガ)にあることを明らかにするために、(1)"Nagarjuna and the Tetralemma(catuskoti)"という論文をまとめた。 次に龍樹の破壊的論法の一つである「三時不成」の論理を体論相手であるニヤーヤ学派の議論とともに分析した"Nagarjuna and the Tetralemma or trikalya-siddhi"を収めた。これは昨年十月ワルシャワ大学で開催された「シャイエル記念国際サンスクリット学会」における発表である。 龍樹の議論のさらに詳細な分析は、平成十年秋に刊行した『インド人の論理学』(中央公論社)の第四章で明らかにした。 『中論頌』の英訳のネイティヴ・チェックについては、昨年十一月末から二週間イリノイ州立大学のMark Siderits教授(中観仏教研究者)が広島大学に滞在した際に、一部受けることが出来たが、全体をカバーすることはできなかった。しかし、今後シデリッツ教授と共訳の形で『中論頌』全体の英訳を公表する点で合意に達した。本報告書では、まず現在のままでの桂英訳を掲げる。次にシデリッツ教授との共訳として完成した第二章の英訳を挙げる。最後に、既に公表している第二十四章・第二十六章の桂英訳("Nagarjuna and Pratityasamutpada",『印度学仏教学研究』Vol.46,No.1,December 1997;"Resurgence of the Mundane in Nagarjuna's Philosophy",『日本仏教学会年報』Vol.LVIII,1998)を採録しておく。
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