今年度の研究実績としては、第一に、吉蔵『法華統略』の訓読訳・注の完成(『法華経注釈書集成6・法華統略(上)』大蔵出版、1998年、『法華経注釈書集成7・法華統略(下)』大蔵出版、2000年)を受けて、『大日本続蔵経』所収本と真福寺宝生院所蔵本の比較的大きな相違点を整理して発表した(「吉蔵撰『法華統略』写本(真福寺宝生院所蔵)について」を参照)。 第二に、智〓は法華経至上主義というよりも、むしろ円教至上主義と呼ぶべき立場に立って、大乗経典はすべて円教を説いていると見なしている点は、大乗経典を平等視する浄影寺慧遠、吉蔵と共通の教判思想を持つものと捉えられることを明らかにした(「智〓と吉蔵の法華経観の比較-智〓は果たして法華経至上主義者か?」を参照)。中国天台宗が法華経至上主義に変化していくのは、華厳宗、法相宗などと厳しく対抗した湛然の影響が強いのではないかとの見通しを持っているが、それを学問的に論証するのは今後の課題とせざるをえない。 第三に、『法華経』の中心思想(一仏乗の思想・久遠の釈尊の思想・地涌の菩薩の思想)が智〓や吉蔵をはじめとする中国の法華経注釈家によってどのように受容されたのか、そこにどのような中国的特色が見られるのかについて考察した(「中国における『法華経』の思想の受容」を参照)。
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