1、『現観荘厳論』の構造の大枠である八現観の関係を、ハリバドラの註釈とチベット人によるその複註を参考にしながら考察した。『現観荘厳論』の説く修行階梯を、伝統的な五段階であると捉える解釈と、八現観であると捉える解釈の二つは現代学者にも見られる。しかし八現観というのは、一つの現観を完全に終えてから次の段階の現観に進むという直線的な階梯ではなく、ある対象について熟知ならば熟知、支配ならば支配という営みを行いながら上の段階に進み、一定の成果が得られたならば、さらに別の対象について熟知、支配などを繰り返すというタイプの階梯であろうと、判断した。その結果、『現観荘厳論』の説く修行体系は、伝統的な五段階を組み込んでいるものの、主要な骨組みは八現観から成り立っていると、結論づけた。 2、『現観荘厳論』の構造の大枠である八現観について概説した、『現観荘厳論』第1章第17偈までのハリバドラ註に対する、ニャオン・クンガペルによる複註(以下、「ニャ註」と略)のテキスト・クリティックを行った。現在入手可能なニャ註は、十九世紀に木版印刷されたbKra shis 'khyil版の印影版のみであるが、これには、本文と区別されないかたちで、後世の者の手による覚え書きも彫られている。したがって本研究では基礎作業として、後世の覚え書きを除外したニャ註本文のみを抽出し、著者自身の番号割りと本文の内容にしたがって、本文の構造が明らかになるように校訂テキストを作った。
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