本年度のメインの研究は、仏教聖典中、最古で最も重要な文献の一つである「スッタニパータ」の正順と逆順の詩脚索引(Pada Index)をパーソナルコンピュータによって作成することである。この詩脚索引作成は、「ダンマパダ」、「テーラガーター」、「テーリーガーター」の詩脚索引を作成したと全く同じ手順で進めたが、ここには前述の3作品にはみられなかった解析困難な多くの詩節が含まれており、詩脚を区切るのに困難を極めた。これらの解決ののために、数年来公表されているアルスドルフ、ノーマン、ボレー教授等の新しい読み(異読)や最新の研究を参考にしつつ進めた。 データベース上にテキストを作成していく過程で多くの発見があった。まず、テキストには単なるミスプリントばかりでなく、PTS版「スッタニハータ」に付されている訂正表(Corrections and Additions)にも誤りがあることが判明した。このようなことはケンブリッジ大学のコーン博士と手紙のやり取りや直接のディスカッションによって確認されたことである。また、一つの詩節と見做されていても、実は散文と詩脚の組み合わさったものが一詩節と数えられているものがあることも確認できた。 さらに、博士の助言によってであるが、正書法(orthography)に違いがあっても、同じ語は同じ順番にすべきこと、例えば、-m caと-n caは同じ一塊の詩脚として拾集すべきことが、使用する研究者にとって不可欠であることがわかった。このことを踏まえた上で、「ダンマパダ」、「テーラガーター」、「テーリーガーター」をも含む4聖典の正順・逆順詩脚索引を作成することが必要となり、それと並行して、既に公表済みのジャイナ教の最古の5聖典の詩脚索引とを注意深く比較対照して、並行詩脚を抽出しているところである。
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