(1) 九州大学比較宗教学研究室が調査・研究してきたデータを基に、『九州の祭り1博多の祭り』を出版した。これは博多の「博多祇園山笠」と「博多どんたく港祭」の2つの祭りを、江戸時代まで遡りながら、その構成、機能、歴史的変化、外部社会との関係性等について整理したものである。これにより、江戸時代の閉鎖的経済体制の中で、祭りが周囲地域から都市への吸引力を高めるための装置として活用される一方で、都市住民に美的能力、組織力、交渉能力、産業発展等の諸力を向上させるのに貢献していたことが理解された。都市祭礼の固有性は、都市の維持・発展のために住民が作りだした管理ソフトである点にあるが、その宗教的特徴については、さらに農村の祭りとの比較を通じて明らかにしていく必要がある。 (2) 村の祭りについては、宮崎県椎葉村の神楽の調査を初めて行い、すでに手がけている同西都市銀鏡地区の神楽との比較研究に着手した。この調査は現在進行中であり、神楽の祭具や、装束、所作の構造分析を行うと同時に、その社会的・心理的・宇宙論的な意味づけの解明に努めているところである。 (3) 都市祭礼と村の祭りの比較から理解されるのは、祭りが時間軸、空間軸、社会軸にそって多大な作用を果たしていることである。時間軸としては、祭りは参加者の誕生から死までを包摂すると同時に、行為の記憶を通じて死者と生者を結び合わせる働きをもつ。空間軸としては、祭りが他の祭りとの間に共通性と差異性を含む関係をもつとともに、集団の外部に影響や支配関係を及ぼしていることが注目される。社会軸としては、祭りが集団の内外に吸引力を及ぼしていることが確認される。このように祭りの機能は多様なものであり、そうした機能の複合性こそが宗教的制度の特徴であると判断される。
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