研究概要 |
本研究は「万有在神論」(Panentheismus)についての包括的な主題的な研究を目指しているが、昨年度の基礎的研究を踏まえて、今年度はトレルチとセバスティアン・フランクについて集中的研究を試みた。たまたま勤務先の大学の研究休暇を得られたこともあって、3月から8月にかけてドイツに赴き、主にアウクスブルク大学を拠点として、両思想家について研究した。トレルチに関しては、遺稿『信仰論』Glaubenslehreのきわめて重要な文脈において、「万有在神論」の用語が用いられているが、それ以外にも他の著作で合計三回見いだされることが判明した。個々の用法を逐一詳細に分析した結果、彼のいう「万有在神論」は「内的な性質の二元論」ないし「世界に内在的な二元論」とほぼ同義であり、これは預言者的・キリスト教的人格神論(有神論)に立ちながら、近代的世界感情に遍くゆきわたっている汎神論的・一元論的傾向を部分的に承認し、両者を統合しようと試みるところに成立したものであることが明らかになった。この研究成果は「トレルチにおける『万有在神論』の思想」として、『聖学院大学論叢』第12卷第2号に掲載発表した。セバスティアン・フランクに関しては、主著『パラドクサ』Paradoxaを中心に考察したが、彼の世界観を「万有在神論」と表示すべきか、それとも通説的に「汎神論」とすべきかはいまだに決め難く、明解な態度決定のためにはさらなる研鑽が必要である。なお、「万有在神論」の概念を最初に打ち出したと言われるクラウゼ(Karl Christian Friedrich Krause,1781-1832)についても、この機会に一種の概念史的研究を試みた。その研究成果もいずれ学術論文にして公表する予定である。
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