本研究は、英語圏の倫理学・社会哲学の領域で活発に論議されてきた「社会正義論」を、わが国の医療・福祉・年金制度などの「社会保障の構造改革」の指針として活用する方途を探るとともに、社会保障を支える《連帯・互助》の理念を社会倫理学の観点からより原理的に解明することをねらいとする。 最終年度にあたる本年度は、前年度末に刊行した共編著『応用倫理学の転換-二正面作戦のためのガイドライン』(ナカニシヤ出版)に対する複数の書評に応じながら、現代倫理学の隘路と突破口を解明する作業から取りかかった。またこれと並行して、現代の倫理学が負っている「特別な困難」と「不幸な事情」を描き出そうとした清水幾太郎の名著『倫理学ノート』を復刊し、解説を寄せた。 「世代間の公平性」を一つの争点とする環境倫理学に関して、公文書における「環境倫理」の登場と消滅の経緯をたどる論文と、経済学者アマルティア・センの仕事が環境倫理学に与える示唆を明らかにする論文とを執筆した。なお本年度いっぱいをかけて共訳を仕上げたJ・ローマの『分配的正義の諸理論』が近々木鐸社より刊行される運びとなっている。 本研究のまとめをかねて取り組んだのが、日本哲学会の2001年度大会でのシンポジウム「正義と公共性」での報告原稿である。そこでは「ローカルな正義」を構想するJ・エルスターと「介護の町内化」(介護関係ではなく介護力だけの社会化を肯定する)を提唱する三次春樹とを対質させておいた。詳しい研究実績に関しては、研究成果報告書に譲りたい。
|