本研究は、英語圏の倫理学・社会哲学の領域で活発に論議されてきた「社会正義論」を、わが国の医療・福祉・年金制度などの「社会保障の構造改革」の指針として活用する方途を探るとともに、社会保障を支える《連帯・互助》の理念を社会倫理学の観点からより原理的に解明することをねらいとするものであった。 初年度は、国立社会保障・人口問題研究所の共同プロジェクト「社会保障の費用負担と世代間の公平性に関する研究」に参加した。さらに同研究所主催による第3回厚生政策セミナー「福祉国家の経済と倫理」が開かれ(1999年3月8日)、研究代表者はコメントを担当した。また雑誌『世界』第659号が特集した「破綻回避のための年金改革論-社会保障の総合構想を」の巻頭論文を執筆し、本研究の基本路線を定めようと試みた。 第2年度は、上述のセミナーにおけるコメントを機関紙『季刊・社会保障研究』に寄稿する作業から取りかかった。次いで、「自己決定権」と「内発的義務」の両者が社会保障制度の基底をなすものであることを裏づける論文を執筆した。 最終年度は、本研究のまとめをかねて日本哲学会の2001年度大会でのシンポジウム「正義と公共性」での報告原稿に取り組んだ。そこでは「ローカルな正義」を構想するJ・エルスターと「介護の町内化」(介護関係ではなく介護力だけの社会化を肯定する)を提唱する三次春樹とを対質させておいた。以上が研究成果の概要である。
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