本年度はまず、研究構想の全体的な見取り図を論文にして出版できたことが大きな成果であった(関根清三編 『死生観と生命』東京大学出版会、所収「第五章 西洋(近・現代)価値ニヒリズムの系譜」)。そこでは、従来指摘されることが弱かったが、ショーペンハウアーにも十分に価値ニヒリズムの主張が読み取れること、それを受けてニーチェ本来の思想が「完成された[価値]ニヒリズム」にほかならないこと、存在論に徹したハイデガーにおいてもまた、「価値」とは「存在者」の一員に位置付けられるがゆえに自体的な根拠を持たぬものであって、そこから(上記の二人とは異なった視角から)価値ニヒリズムが展開されていると読めること、を明らかにした。 これとは別に、ショーペンハウアー以降の近代ドイツのニヒリズムの系譜にとって、その先行思想として、ヘーゲルと並んでカントの価値論が潜在的に孕んでいたニヒリズムの契機はきわめて重要な意義を有するが、この点で雑誌「理想No.633」に拙論「カントと価値ニヒリズムの問題」が掲載されたことも重要な成果であった。なお、この研究内容は2000年3月にフンボルト大学(ベルリン)で開かれる第九回国際カント学会で口頭発表されるが、その準備として1999年9月に本科研費によりフンボルト大学哲学科を訪問したが、有意義であった。 設備備品として「ハイデガー全集」(既刊分)を購入した。今後の研究に大きな武器となってくれるはずである。 また、本研究テーマと大いに関わって渋谷は年来<シェイクスピアにおける価値ニヒリズム>を考察してきたが、これを1999年7月に単行本として上梓できたことも大きな成果であった。
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