三年の研究期間の最終年に当たる本年度は、主にハイデガーの研究に当てた。存在(有)を探求した彼が「価値」に関してはニヒリズム(無)であったということができるかどうか、が研究の出発点であった。成果としては、(1)「無」を主題的に論じている文献として『形而上学とは何か』(1929)を再読、三読した結果、ここで語られている「無」はそのままニヒリズムにつながるものではないと判明した。とはいえ、<存在の現存在に対する存在仕方>としての「無」が現存在に不安をもたらす、という根本的な人間存在論を、価値ニヒリズムと呼ぶことは十分可能であろうと確信した。なぜなら、この不安は人間の根本的な存在無根拠を感知せしめるからである。(2)それと連関して、Vorhandenseinの有用性を一般的な意味で「価値」と呼ぶとすれば、ハイデガーの存在思想は、やはり価値ニヒリズムと呼ぶことができるであろう、と結論した。というのは、有用性とはひとつの存在者にほかならず、したがってそれ自体には意味も根拠もないからである。 これに加えて、三年間の成果のまとめとして、年度末に「成果報告書」を作成する。この間、この研究の促進の意味もこめて「ショーペンハウアー、ニーチェ、ハイデガー」の連関と差異を講義で取り上げてきたが、その講義ノート、資料、メモをもとにして、原稿用紙で200枚を検討にまとめてみたい。それをいったん印刷・製本し、研究の友人等に配布して批判をあおぎ、将来の上梓に向けてのステップとしたい。
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