研究概要 |
(1) 初年度はつとめて関係文献の調査・収集に専念した。資料採訪した主な図書館は、国会図書館、東京大学図書館、京都大学図書館、京都総合資料館、金沢市立図書館、福井県立図書館、杏雨書屋、大阪府立図書館、賀川大学図書館などである。 (2) 殊に金沢市立図書館蒼龍館文庫蔵のヒュクサムの蘭訳本(J.Huxham,Proeve over de Koortsen,1821)及びその訳本たる小森宏「重訂薔薇園 医笈熱論」2種と「扶古散謨熱病論語解」を収集できた。ヒュクサム蘭訳本は、吉田長淑『泰西熱病論』(1814)が依拠した書として知られ、長淑は冒頭で「西哲日ク医ハ自然良知能ノ臣僕ナリト」述べているからである。今後これらの書と蘭原文とを比較対照し、自然良能概念成立の過程を追跡したい。 (3) 西洋ではホフマン、ブールハーフェにより自然良能概念は普及するが、オランダでの展開はゴービウスが重要であることが判った。ホフマンの蘭訳本の存在の確認も含め、これらの蘭原本の調査が今後必要である。 (4) オランダ語のNatuurの当時の訳語としては「自然」は見出しがたい。自然学Physicaの蘭語訳で科学または物理学にあたるNatuurkundeも、当時は究理と呼ばれることが多かった。「自ずから然る」という意味として副詞的に使用された「自然」概念がいつ名詞としてのそれに理解されたかを究明するには、従来の訳語例に付け加え、人体内部の自然としての治癒力という西洋概念に「自然良能」と訳す過程でどう対処したかを分析することにより、興味深い新たな事例を提供することが判明した。
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