今年度は研究計画の初年度として研究課題に関係する資料の収集と分析を主として行った。その結果として研究論文『イスラーム宗教思想の「愛」についての一考察』を1999年度英知大学紀要サピエンチア第33号に発表した。これはイスラニム神秘思想における神の愛の思想がイスラーム存在論に根拠をおいていることを論証するための基礎的研究である。この論文作成においてはテヘラン大学のプールジャワーディー教授によるレヴューに負うところが多い。また、東洋文庫所蔵の中国イスラーム思想家の文献を分析した結果、イスラーム神秘思想における存在一性論と愛の一元論を融合させた15世紀のジャーミーの思想が西アジアはいうに及ばず中国ムスリムにまで深く影響していることが明らかになった。このため、ジャーミーの著書で17世紀に漢文訳された『ラワーエフ(閃光)』を翻訳し、解説・注釈を加えて研究成果報告書の一部として印刷した。中国語(漢語)を母語とするイスラーム教徒は自分たちのイスラーム教を清真古教と呼びその伝統を誇りにしている。この清真古教の信者の世界観がイブン・アラビーやジャーミーの存在-性論哲学であることは興味深い事実である。この点を従来の中国イスラーム研究は無視してきた。このため、研究代表者は清末の中国イスラーム思想家馬聯元の研究に着手した。馬聯元の思想はこれまで研究されていないので、現在までに多くの新事実を発見した。この研究結果は次年度に発表する予定である。
|