本年度は研究計画の第3年度であり、既に提出した平成12年度研究実施計画に準じ研究をおこなった。具体的には、第一に中国イスラームの清真老教派に伝承される存在-性論の発展の研究をおこない、清初の王岱與の『清真大学』にみえる真一、数一、体一という存在顕現の三段階を示す観念が劉智の『天方性理』を介し清末の馬聯元の『天方性理阿文注解』Sharh al-Lata 'ifにおいて解釈が変化している事実を明らかにした。その内容の一部は平成13年1月22日に京都大学でおこなわれたCOE-ASAFAS International Conference Ibn 'Arabi and the Islamic World:Spread and AssimilationにおいてMuslim Chinese and Philosophy of Unity of Beingと題する講演において発表した。第二に、イスラーム存在論の基礎を築いたイブン・スィーナーの存在観念を多角的に研究するため彼の主要論文の一つ『愛について』を、それに先行する"清浄の同胞団"の論集にみえる『愛の本質について』と比較しつつ、分析した。その内容は英知大学論叢サピエンチア第35号に発表した。第三に計画していたイランへの渡航をおこないアリストテレスの『林檎の書』に対するクーチャーニーの注解書の校訂者アターイー教授のレヴューをうけペルシア語の研究論文を書いた。これは近くイランで発表の予定である。以上の三つの研究はスーフィズム存在論の観点から相互に関係の深いものである。本年度は、ほぼ計画どおり研究を実施することができた。
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