16世紀ヨーロッパで台頭した近代のキリスト教霊性の歴史的、文化的背景について資料を収集し、分析をした。その結果、西欧のキリスト教世界の統一が崩壊した時代であった13-14世紀に起こった神秘主義運動、すなわち神中心的で神の本質との一致を志向する霊性や、新しい信心を求めるデヴォティオ・モデルナ運動、フランシスコ会、ドミニコ会の活躍が、神との個人的で、実存的な関わりを重視する霊性への橋渡しをしていることがかわった。とくに、中世末期のドイツ神秘主義の潮流は、ライン地方を経て、フランドル、ネーデルランドへと入り、さらには十字軍、吟遊詩人などを通して、スペインへと流れ込んだ。その結果、聖書の読み方と祈りにおける個人的な体験が重視され、キリストの人性を強調する神秘主義がスペインで開花したと理解することができる。 今年度は、中世末期のドイツの神秘家の著作、特にルドルフ・フォン・ザクセンとトマス・ア・ケンピスの著作を中心に研究を進めた。ルドルフ『キリストの生涯』 (Vita Christi)とトマス・ア・ケンピスの『キリストにならいて』 (Imitatio Christi)に共通して見られる、宗教体験の個人化、情感豊かな霊性、実存的な祈りの方法、キリストの人間性、公生活、苦しみに焦点を当てたキリスト中心主義は、まさに近代の霊性のモティーフとなった。ルドルフ・フォン・ザクセンとトマス・ア・ケンピスの霊性は、とくにイグナ.ティウス・デ・ロヨラの霊性に主題的、資料的に大きな影響を与えたことが明らかになった。 来年度は、中世末期のドイツ神秘主義がスペイン(とくにイエズス会とカルメル会)の霊性に及ぼした影響について、文献資料に沿って、テーマ別に検討していきたい。
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