1.近代のキリスト教霊性の歴史的、文化的背景について研究・調査した。その結果、西欧のキリスト教世界の統一が崩壊した時代であった13-14世紀に起こった神秘主義運動、すなわち神中心的で神の本質との一致を志向する霊性や、新しい信心を求めるデヴォティオ・モデルナ運動、フランシスコ会、ドミニコ会の活躍が、神との個人的で、実存的な関わりを重視する近代の霊性への橋渡しをしていることがわかった。とくに中世末期のドイツ神秘主義の潮流は、ライン地方を経てフランドル地方へと入り、さらには十字軍、吟遊詩人などを通して、スペインへと流れ込んだ。その結果、個人的な聖書の読み方と祈りの体験が重視され、キリストの人性を強調する神秘主義がスペインで開花したと理解できる。 2.中世末期の神秘主義について資料的、文献的な研究を行った。14世紀後半にヨーロッパで広く読まれたルドルフ・フォン・ザクセンの『キリストの生涯』(Vita Christi)と、トマス・ア・ケンピスの『キリストにならいて』(Imitatio Christi)は、イグナティウス・デ・ロヨラの霊性に直接的な影響をもたらし、また、アビラのテレサ、そして十字架のヨハネの霊性も信仰の内面化、宗教体験の情緒化という点で、直接的、間接的に中世末期のドイツ神秘主義の影響を受けている。中世末期のドイツ神秘主義に共通して見られる、宗教体験の個人化、情感豊かな霊性、実存的な祈りの方法、キリストの人間性、公生活、苦しみに焦点を当てたキリスト中心主義は、近代の霊性のモティーフとなったことが判明した。 3.スペインの神秘家、アビラのテレサ、十字架のヨハネの霊性は、近代・現代の歴史的、精神的な体験、暗夜、苦しみの経験と交わるところがある。とくに現代ドイツの思想家、エディット・シュタインの霊性の根幹には、このスペインの神秘家の影響が色濃く見られることがわかった。
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