本研究の初年度にあたる今年度は、舞踊する身体に関する、分野横断的な身体論の構築とその舞踊史への適用という全体の課題に沿って、まず研究環境の整備としては、基礎的な資料の収集とそのデータベース化、そして研究内容の面では、作成されたデータベースをもとにしての、身体論を展開するためのフィールド、もしくは基本言語の確定という作業を行った。 そのためにはまず、今年度は、身体論と舞踊というテーマの性質からしても、どうしても文献資料より重きをなすヴィジュアルなデータを広範囲に、かつクロスリファランスも可能なように扱える環境の整備をめざした。具体的にいえば、既成のヴィジュアル・ソフトウェアのシステマティックな購入と、それに何よりも振付家やダンサーたちが仕事をする現場(ワークショップなど)に入っての直接の撮影と、そのようにして作成された映像のコンピューターへの取り込み、そして分析などが主な課題になった。また内容面からは、舞踊のジャンルを横断してバレエ、モダン・ダンス、コンテンポラリー・ダンスなどと日本の古典芸能における身体がクロスする場所を確定し、この場所を理論的に言語化するための基礎データをとくに精力的に調査した。 その結果は、空間が、十九世紀の身体にたいしてもつ精神分析的関わり、あるいは日本の古典芸能における声の果たす精神分析的役割という、これまであまり指摘されたことのない観点からの身体論的舞踊論に結実した。そしてまたそうした努力は、現場のアーティストとのいくつかのコラボレーションを実現させ、理論と実践のクロスオーヴァーを模索する絶好の機会をつくることにもつながった。
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